【裁判事例】「土地の無償返還の届出書」を提出していた場合の、譲渡所得にかかる借地権部分の収入金額は?
- FLAP 税理士法人
- 1 分前
- 読了時間: 3分

土地と借地権の売却に関する税務裁判の判示事項
これは、個人(地主)が自身の会社(借地人)に貸していた土地を、
第三者に売却した際の譲渡所得の計算方法に関する裁判の判決内容をまとめたものです。
特に、「無償返還の届出書」を提出していた場合の、借地権の価値が誰に帰属するかが大きな争点となりました。
1.事件の概要
原告(個人・地主)は、自身が代表を務めるA社に建物を所有させる目的で土地を貸していました。
この土地の賃貸借については、将来無償で土地を返還することを約束する
「無償返還に関する届出書」を税務署に提出済みでした。
平成28年、原告とA社は、この土地と建物をB社に一括で売却しました。
原告は、売却代金のうち土地代金の80%が自身の収入であり、
残りの20%はA社の借地権の対価であるとして譲渡所得を申告しました。
しかし、税務署長は「土地の売却代金は全額が原告の収入である」として、追加の税金を課す処分(更正処分等)を行いました。
原告は、この処分は違法であるとして、その取り消しを求めて裁判を起こしました。
2.主な争点
「無償返還の届出書」を提出している土地を売却した場合、その土地の価値のうち借地権に相当する部分の収入は、地主(個人)と借地人(法人)のどちらに帰属するのか。
3.裁判所の判断(結論)
土地の売買代金の全額(借地権の価値を含む)が、地主である原告の譲渡所得となる。
原告が申告した土地代金の80%ではなく、売買契約書に記載された土地代金の全額(約54億円)が原告の総収入金額として計算されるべきであると判断しました。
4.判断の理由
「無償返還の届出書」の意味 📝
この届出書を提出するということは、「地主と借地人の間では、借地権という経済的価値は地主から借地人に移転しておらず、土地の価値は100%地主のもとに残っている」という経済的な実態を、地主自らが税務署に対して宣言(届出)する行為であると解釈されます。
課税上の一貫性
借地人であるA社は、この届出書を提出しているおかげで、「会社が地主から借地権という価値のある権利を無償で提供された」とみなされて課税されること(権利金の認定課税)を免れています。
このように、法人税の計算においては「借地権の価値は会社に移転していない」という前提が適用されています。裁判所は、この前提は所得税(個人の譲渡所得)の計算においても一貫して適用されるべきだとしました。
自己矛盾の不許可
原告は、自ら「借地権の価値は会社に移転していない」と税務署に届け出ておきながら、土地を売却した時だけ「借地権の価値は会社のものだ」と主張することは、自己の宣言と矛盾しており、認められないと判断されました。
売買契約書の内容
実際の売買契約書でも、土地の売買代金(約54億円)は全て原告に、建物の代金(約7820万円)はA社に支払われる、と明確に区別されていました。この契約内容も、土地の価値全体が原告に帰属するという経済実態を裏付けているとされました。
判決日:令和7年1月17日
コメント