【損害賠償事案】住宅ローンの特別控除の助言義務で税理士損害賠償 裁決:令和4年05月16日
- FLAP 税理士法人
- 6 日前
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■ 判決の要点まとめ
1. 事案の骨子
原告は弁護士で、税理士(被告の母)と継続的な確定申告契約を締結していた。
旧自宅を売却し「3,000万円控除(措法35条)」を利用、のちに新居購入を予定。
原告は、住宅ローン控除(措法41条の1)との併用可否について税理士に相談。
税理士は、「修正申告で売却時控除の適用年を前倒しすれば両方適用可能」と助言。
原告はこれを信じて高額物件を購入したが、税務署が修正申告を却下。
結果として、住宅ローン控除を受けられず、損害が発生。
2. 主要な争点と裁判所の判断
◉ 【争点①】税理士の債務不履行責任の有無
裁判所は、税理士の専門家責任として「適正な申告の実現に必要な調査・確認義務」を肯定。
修正申告の法的成立要件(国税通則法19条1項)を確認せずに助言・実行したのは義務違反と認定。
したがって、本件修正申告の「法的不可」を見過ごした税理士に善管注意義務違反があったと判断。
◉ 【争点②】損害の発生と因果関係
原告は住宅ローン控除満額適用を重視しており、控除ができないと知っていれば購入を見送ったと推認。
実際に住宅ローン控除が適用されれば得られたはずの減税分(年40万円×10年)を損害と認定。
損害額は中間利息(5%)を控除して294万1600円と算定。
原告が物件購入の詳細を税理士に示していなかったことは、因果関係を否定する理由とはならないとした。
■ 判決の意義と実務的教訓
項目 | 内容 |
税理士の義務 | 修正申告など特例適用には、形式要件・実体要件の確認義務あり(漫然と申告してはならない) |
助言責任の範囲 | 単なる申告代行にとどまらず、結果に関わる法的見通しの調査・説明も含まれる(特に節税の意図が明白な場合) |
依頼者との信頼関係 | 誤った専門的助言が依頼者の重大な財産判断に影響し得る場合、損害賠償責任が発生しうる |
税法実務上の留意点 | 売却時控除と住宅ローン控除の併用には「時期制限(3年ルール)」あり、申告年度の操作は要注意 |
■ 法的整理:問題点の所在
法律構成要件 | 本件該当性 |
善管注意義務違反(民法644条) | ○ 修正申告の適法性未確認は義務違反 |
相当因果関係(民法416条) | ○ 控除が可能との誤信に基づき物件購入 |
損害の発生と算定 | ○ 控除額相当分を逸失利益として認定 |
修正申告の法的根拠 | × 国税通則法19条に合致しないため無効 |
国税通則法19条
修正申告の要件
一 先の納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足額があるとき。
二 先の納税申告書に記載した純損失等の金額が過大であるとき。
三 先の納税申告書に記載した還付金の額に相当する税額が過大であるとき。
四 先の納税申告書に当該申告書の提出により納付すべき税額を記載しなかつた場合において、その納付すべき税額があるとき。
■ 結論と評価
本判決は、税理士による誤った専門的助言に基づいて依頼者が重要な経済的意思決定(不動産購入)を行った場合、その助言と損害との間に相当因果関係があるとして損害賠償責任を肯定した点に重要な意義があります。
とくに「修正申告をすれば控除が可能」という誤った理解が、節税目的の判断に重大な影響を与え得ることを再確認した判決といえ、税理士実務に対する警鐘的判決です。
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